ウイスキー造りの大切な原料、香りのもととなる「ピート」を使ったエールビール。構想のはじまりは2020年。薫香に魅了され、スモーキーなラオホビールやアイラウイスキーに親しんだ感性を研ぎ澄まさせて完成させた。まるでウイスキーのピート香、想像以上のアルコール感。類ない刺激に五感を醒ましたら、後は果てなくゆるゆると。根っからの酒好きが親愛なる酒好きに贈るスペシャルビア。チューリップ型グラスに注ぐとより香りが広がります。
- スタイル : ピーテッドエール
- モルト : マリスオッター、ピーテッド、スモーク
- ホップ : チヌーク
- ABV : 11.0%
- IBU : 1
- 容量: 330ml
北小山ショートショート
「二人静」
いつものように、あんずの手入れをしていると、「マイ」と私を呼ぶ聞き覚えのある声。
やっぱり、来たーー。
来て欲しいくせに、その時が怖かった私は、恐る恐る声の方に顔を向けた。
「バカ!」とカオリが駆け寄り私に抱きつく。
「ごめんね」
東京の有名な洋菓子店に同期入社で入ったのがカオリ。すぐに仲良くなり、将来一緒に店を開こうと夢を語り合った。でも、私は厳しい修行に耐えられず、誰にも何も言わず逃げたのだ……。
畑の北側の小高い丘に場所を移し、空白の十五年を話す。カオリは三年前に小さな洋菓子店を立ち上げていた。
「絶対マイはあんずを作るはずだと思ってた」と、カオリは一枚の紙を広げた。そこにはふたりで描いたアプリコットのケーキ。ふたりともあんずが大好きで、(あんずで世界一のケーキを作る)と語り合っていた。
「破って捨ててると思ってた」
「そんなわけない」
「本当にごめんね……」
グスンと鼻を鳴らすと、カオリはポンポンと私の頭を叩き、「こんな素敵なあんず園を一人で作ったマイは逃げてなんかいない。むしろ尊敬だよ。パティシエールだけがケーキを作ってるんじゃないんだよ」と言った。
その言葉が嬉しくて私は両手で顔を覆った。
「ケーキの名前はね、『ふたりしずか』にするんだ」
そう続けるカオリの横で、私はしばらく子供みたいに泣いた。だって、その花言葉を知っていたから。