中央線の駅ごとのイメージをクラフトビールで表現する「中央線GO WEST」企画。今回は「西国分寺」です。
武蔵国分寺から出土したあぶみ瓦は、はるか彼方の記憶を揺さぶるフック。おだやかな香りの向こうに、はじめての苦味と甘味がバランスよく広がる、いとおしいIPA。
心静かに注ぐと、瓦文様の泡が浮かびあがるかも……
- スタイル : IPA
- モルト : ハイデルベルク、エール
- ホップ : アマリロ、シトラ、シムコ―
- ABV : 6.0%
- IBU : 48
- 容量: 330ml
瓦IPAショートショート
「頑固者」
お父さんとは絶縁状態だったから、突然亡くなっても涙のひとつも出ない。お母さん1人じゃ葬式も大変だろうと手伝いに帰ってきただけ。
あの日の記憶が蘇る。
(出て行け)
ジャズピアニストになりたいと言った私にお父さんは言った。職人気質で厳しくて頑固。
(2度と帰らない!)と家を出た。
精進落としの席でビールを注いで回っていると、「市民会館に聴きに行ったよ」と、知らないおじさんが言った。俺も、俺も、と周りのおじさんたちが呼応する。
「俺ら、瓦職人仲間。おやじさん、娘が演奏するから観に来てって」
「お客さんにも宣伝してたよな」
「あの頑固なテツさんがな」
おじさん達がガハハと笑った。
「瓦と同じ。何も言わず見守ってんの」
おじさんがポンと私の肩を叩く。
出て行けの意味......、わかったよ。いや、わかってた。
お父さんの遺影を見つめた。
観に来てたくせに。お母さんに口止めして。頑固な親父と頑固な娘ーー。
私はやっと涙を流せた。